ほっとけやん

ほっとけやん144
~地域とともに生きる~
わかやま新報2019年5月9日掲載


みんなで作った共同作業所にいつまでも
—生活介護事業65歳問題


くろしお作業所施設長 城 喜貴

 1977年3月、和歌山県下に初めて障害者のための無認可の作業所「たつのこ共同作業所」(のちの、社会福祉法人一麦会(麦の郷)くろしお作業所はその一事業所となります)が、多くの方の支援によって産声を上げました。その中に、盲ろう重複の障害のある青年、正雄さんも「僕も働きたい」と大きな希望を胸にたつのこ共同作業所に通うことになりました。
 しかしある日、弱視だった目が高熱とともに視力を失い、眼球摘出手術を受けなければならなくなりました。今までわずかながら見えていたテレビや雑誌、周囲の人の顔や風景が見えなくなってしまいました。「なぜ僕だけが…」と落ち込み悩む日が続きました。お母さんや妹さん、作業所でも手を上げることもしばしばでした。
 でも、正雄さんが作業所に通って40年がたった今、若い仲間や職員からは、みんなを優しく気遣い、仕事を頑張る「お兄ちゃん」と呼ばれています。目は見えないけど、耳は聞こえないけど、みんなが一生懸命教えてくれる、伝えてくれる。正雄さんの苦しい気持ちを少しずつ少しずつ動かしてくれたのかもしれません。周りにいる仲間のことも「〜くん、〜やけど、大丈夫か?」ということをまるで見えているかのようにいつも話してくれます。正雄さんの心に「見えないけど見えるもの」が作業所に通った年月の分だけ育まれ、かけがえのない居場所となったのでしょう。
 現在正雄さんの働く、くろしお作業所は、以前は仕事を中心に活動していましたが、年数を重ねるにつれ、仲間の高齢化・障害の重度化が課題となってきました。2007年、障害者自立支援法が施行されるに伴い、重度の障害がある方の居場所として単独の生活介護の事業所となりました。しかし、ゆったりとした活動だけではなく仕事もみんな頑張っています。くろしお作業所の生活介護事業は、障害があっても仕事ややりがい、生きがいなど、一人ひとりの願いに寄り添い、共感実現できる場所として活動をしています。
 しかし、終わりの会でいつも「仕事頑張りました!」と手話とガッツポーズを見せてくれている正雄さんにある日、大変なことが起こったのです。「共同作業所に通えなくなるかもしれない…。なんで?」「まだ仕事頑張りたいのに高齢者の施設に行かなあかんのか…」
 2018年度より、「65歳を過ぎると生活介護事業は利用できない」「65歳を迎えるにあたり介護保険が優先となる」と、国は制度でうたい、一方、「ただし就労継続A型、B型は65歳になっても引き続き利用は可能」というものでした。
 本人にも家族にも、作業所職員にも目の前が真っ暗になる話でした。この現状を多くの方に理解・共感していただくため、行政をはじめさまざまな関係機関と協議を重ねました。結果、単独の生活介護事業から、就労継続B型と生活介護との多機能型に変更することとなりました。
 就労継続B型は、最低工賃額が国の規定で決まっており、仕事が中心の事業です。65歳になって本人の希望でくろしおに通い続けるためには、これまでのくろしおの運営理念(ゆったりと働く場)を変更せざるを得ませんでした。そんな矛盾を抱えたB型事業のスタートとなります。
 共同作業所は、みんなで作ってきた場所であり、その人らしく働き、活動ができる場所です。そしてその人が望む限り年齢の制限はないはずです。いつまでも助け合い育ちあう共同作業所であり続けてほしいということを、これからもみんなで伝え続けていきたいと思います。


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