ほっとけやん
ほっとけやん45

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~地域とともに生きる~
わかやま新報2011年2月3日掲載

わが家となったグループホーム
麦の郷和歌山生活支援センター 江上 直子

グループホームで朝食の支度をしていると一番に起きてくるのが57歳の女性です。「ああようねたわぁ。ヒデキの夢見たんよぉ」追っかけをしていたほどの西城秀樹ファン。軽い妄想なのか、性格なのか、いつも好きな人がいて結婚願望の強いカワイイ人です。統合失調症で妄想がひどくなり入院した彼女は、15年も病院で暮らしてきました。両親も亡くなっていき、住んでいた家も失い、いわゆる退院の受け皿がなかったからです。
 支援センターでは、病気は安定したのになかなか退院できなくなっている精神病患者の方に、地域で生活できる条件を整えようと活動しています。人が暮らすには3つの場(居住の場、日中活動の場、地域での交流の場)があるのが理想的だといわれています。これらの場を行き来する毎日を繰り返しながら、その人ならではのかけがえのない人生が築かれていきます。病気治療など何らかのアクシデントによって一時的にこの流れがせき止められる事があっても、なるべく早く復帰できるのが望ましいのは言うまでもありません。しかし、それが15年の中断となると復帰も簡単には行かなくなっています。
 アパートなどの賃貸物件を見つけるのはさほど困難ではありませんが、大変なのは毎日の暮らしを継続していくことです。統合失調症などの病気は調子の良いときと悪いときの波があり、なるべく安定した状態を保つためにはストレスがかからないように、疲れをためないようにすることが大切です。一人暮らしは文字通り一人でさまざまな生活場面に対処しなければならず、また孤独になりがちです。家族や友だちと暮らす場合でもストレスは付き物ですが、孤独や苦労を分かち合うこともできます。病気と長期入院による後遺障害を持つ彼女にとって、なかまと暮らす共同住居=グループホームは病気の再発を防ぐ有力な資源の一つでした。
 しかし、こうしたホームへの入居は東大に入るよりも難しい確率です。なんといっても絶対的に量が不足しており、彼女が退院に向けての準備に約1年かかったのも一からホームを立ち上げるところから着手しなければならなかったからです。また、ホームが始まっても夜間や休日に働いてもらえる職員を確保するのが難しく、少ない職員でなんとか勤務体制を作っている綱渡り運営が続いています。
 昨年暮れにグループホームのみんなで一泊旅行をしました。道中、退院しての1年を振り返る彼女の会話は生活感あふれる言葉で彩られていました。思えば、入院中の彼女の口癖は「いつ退院できるぅ?」で、どんな生活がしたいのか具体的に語られませんでした。最近の彼女はゴミ出しや食事の支度などに意欲的で(いい嫁になるための修行だそうです)、周りの人を労わったり、励ましたりする気遣いも。日々の多彩な暮らしの営みが、彼女の中に妄想よりも現実の生活の占める割合を確実に大きくしてきているようです。

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