「障害者」から「仲間」へ
地元の生産者らが朝採れ野菜を運んでくる紀ノ川農協(紀の川市)の産直市場「ファーマーズマーケット紀ノ川 ふうの丘」(同市平野)内に昨年4月、カフェ「ムリーノ」(0736・75・9077)がオープンしました。「野菜で世界を旅する」をテーマに、期間ごとに旅先が変わる多国籍ランチが人気です。社会福祉法人「一麦会」(和歌山市)が農協敷地内で運営している障害者作業所「ソーシャルファームもぎたて」(以下「もぎたて」)が、このカフェを運営しています。
利用者が雇用契約を結んで就労訓練を受ける「就労継続支援A型事業所」である「もぎたて」は、利益を再投資して仕事を作り出し、障害者など就労困難者に働く機会を提供することを目指しています。最低賃金を保障したうえで契約を結んでおり、「ムリーノ」でも障害を持つ従業員が接客や調理の補助などを行っています。
マネジャーの私には、これまで福祉の仕事の経験はありませんでした。でも「障害者が働くカフェの企画、運営に携わらないか」と誘われた時、何となくこの仕事に縁を感じました。幼い頃から一緒に住んでいた私の叔母には知的障害があり、私にとって遊び相手であり、けんか相手でもありました。障害者の雇用を作るという「もぎたて」の理想に、亡くなるまで労働を通して社会とつながることがなかった叔母を思い出し、心が動かされたのかもしれません。
オープン当初、私は「障害者のやりがいを作りたい」「能力を引き出してあげたい」と考えていました。しかし一緒に働く中、指示の仕方を巡っての摩擦や葛藤は多々ありますが、彼らの持つ思わぬ柔軟性や真剣に仕事に向き合う姿などに驚かされました。働き始めて1年以上経った今では、障害を持つ従業員に対して私の中にあったある一つの気持ちが消えたように思います。叔母がただ私の家族であったように、ムリーノの従業員はただ仲間であり、「何かを与えてあげなければならない障害者」ではなくなったのです。
ムリーノも「もぎたて」と同じく、きちんと利益を出せる事業であろうと努力をしています。日々の売り上げ目標があり、それを全員で共有しています。目標達成率が芳しくなかった先日、従業員のみんなに話したことがあります。「『障害者の店だから、これぐらいでいいや』と思わず、全ての仕事のクオリティーをきちんと高めよう。ただ楽しく仲良く働くことより、もっと大きな喜びはこのチームで目標を達成すること。みんなで頑張ろう」と。力強くうなずいた皆の目に力が宿ったように見えました。
ムリーノでは今日も、目の前の仕事に打ち込むスタッフが元気に働いています。ご来店をお待ちしています。
ソーシャルファームもぎたて
ムリーノ・マネジャー 立畑千賀子