ほっとけやん 第12話

わかやま新報2008年5月1日掲載

障害のある人への支援の喜び  純粋な「ありがとう」

精神障害者生活訓練施設 麦の芽 ホーム ソーシャルワーカー 武田 賢二

今回は、麦の郷で働く知的障害のある女性が、民間のアパートで一人暮らしをはじめていく過程で私自身が学んだことを紹介させてまらいます。
当時、彼女は麦の郷のクリーニングで仕事しながらグループホーム(障害者共同生活住居)を利用していました。そんな彼女から「アパートで一人暮らしをしたい!」と相談を受けました。しかし彼女は挨拶ができず、自分の感情を出しすぎることがたびたび見受けられ、人との関係を築くことが困難な人でした。そんな彼女が、近所付き合いが必要なアパート生活をすることに「よし!そうしましょう!」と即答をするとこができず、逆に、「仕事仲間に挨拶することもできないとアパート生活は難しいのではないですか?」と問いかけました。すると、翌日からぎこちないながらもみんなに挨拶をする彼女がいました。その表情には苦手なことを克服しようと努力する姿がみてとれました。
その行動はしばらく続き、一人暮らしへの思いが本気と感じた私は、彼女と障害福祉課の担当者と一緒にアパート探しをはじめる支援を開始しました。またアパート探しの他にも、保護者の説得や単身生活においての生計の試算などやるべきことはたくさんありました。
そんな中、家賃の手頃で作業所にも近いアパートが見つかりました。大家さんには断れれるかもしれないという不安もありましたが、賃貸したい契約者は知的障害があることを告げました。しかしその返答は、「行政や施設職員がかかわってくれているなら安心です」とのことでした。3人の不安は喜びに変わり、理解のある大家さんの持つその物件との契約を交わすことにしました。
そして引っ越しの日を迎えました。時期は8月の暑い日。汗だくになりながらも引っ越しを済ませた後、彼女は自然な笑顔とともに言いました…「ありがとう」と。その笑顔は以前みたいに無理をした表情ではなく、純粋な気持ちからでる自然なものでした。
この支援を通じて私は障害のある人が希望や夢を持ち、実現していく一部始終にかかわることができました。当初の相談で、彼女はこもままではいけないと感じ、自身の弱い部分を認めて、弱さを補う努力を続けていくことは彼女自身が変わるだけでなく、スタッフを含む周囲を変えていきました。
また最後の「ありがとう」の言葉は、利害関係などではない心からの思いを寄せてくれました。この仕事をしていなければ、こんな純粋な「ありがとう」は滅多に聞けるものではなく、改めてこの仕事の持つ魅力や価値を感じ、そして障害のある仲間とともに私自身が一緒に成長できた経験でした。