ほっとけやん 第22話
わかやま新報2009年3月5日掲載
若者問題に関する韓日間比較調査について
麦の郷紀の川・岩出生活支援センター 野中康寛
受験シーズンに韓国の若者たちがハチマキをまいて受験に取り組む姿のニュースを自宅でみていて「この若者たちの育ちや発達は大丈夫だろうか?」と缶ビール片手に独り言っている自分に気が付き苦笑したことがあります。
日本では、1990年代以降に社会的ひきこもりについての問題が深刻化し、その背景の一つとして1960年代以降の競争社会(受験競争への無理やりな適応)があると考えられています。日本以上に受験競争が激化している韓国では、どのような青少年問題が起こっているかを調査するために「若年問題に関する韓日問題比較調査」を行いました。調査の立案をおこなった主任研究者は、若者の社会参加について調査研究を行っている立命館大学教授の山本耕平さんです。
私たちは、韓国の受験競争を若者自身がどのようにとらえているのかを知るために、PCバンという韓国版インターネットカフェを利用している若者や韓国の大学(日本語学科)の在学生から聞き取り調査を行いました。韓国における入試制度や受験競争について若者たちに聞くと「大きな問題である」と感じているようです。しかし、この入試制度に適用しなければ、韓国社会で生きることができないといった価値観を持っています。
それは、ごく普通の高校3年生の毎日の生活を聞けば容易に想像できました。彼らは、受験前、朝7時30分~22時まで学校(公立)で過ごし、夜中22時~1時まで塾で受験勉強をおこなったと話します。また、彼らは「高校・大学受験中は勉強機械(マシーン)で大学に入学してやっと人間と言われるのが韓国では当たり前の姿です」と話し、勉強を強制されることは、学生だから当然であると考えています。
「この競争についていけない若者たちはどのようになるのか」という質問を投げかけると、「彼らは、受験に対して特に関心がない学生で自分のやりたいことだけをやっている」という答えが返ってきました。日本も同じかもしれませんが、就学や就職できないという問題は、社会的な課題ではなく個人や家族の問題としての捉え方が大きいと感じました。同様に「ひきこもり」についても、若者の発達危機としての課題ではなく、家族や本人の問題としての捉え方であり、社会問題化していない現状があるように感じました。
後日、ホームレス(若者を含む)支援をおこなうタジソギ(意味:再び立つ)センター長は、今後も過酷な受験競争の下で適応できなかった若年のホームレスが増加していくだろうと示唆しました。センター長は、彼らに必要な支援として単に衣食住医を提供する支援だけではなく、自尊感の回復が必要不可欠であるとし、そのためのプログラムが組み込まれていました。自己責任ではなく、社会的な背景や社会の歪(ゆがみ)をとらえ、自尊感を回復させることで今後起こりうる困難に立ち向かうことができると語ります。
近い将来日本でも若年のホームレス問題がクローズアップされることが予想されます。さまざまな問題解決の可能性を見いだしている「自尊感の回復」という言葉に共感を覚えつつ韓国を後にしました。