ほっとけやん 第39話

わかやま新報2010年8月5日掲載

「この街で一緒に暮らしていこらよ」

麦の郷 企画支援室  中北 千寿

「調子を崩さないためには楽しく遊ばなあかんのです」 自身の実体験から、寺脇さんは力強くそう断言し、妻の直美さんはその横で笑顔で頷いていました。二人は精神障害者ピアサポーターとして「生きづらさ」をもつなかまの声に耳を傾ける活動を、もう何年も続けています。
「楽しく遊ぶ」には、心や時間・金銭的ゆとりはもちろん、興味・関心を持続することなど精神障害を持つ方には困難なことを含めて多くの要件を満たさないといけません。それに加え「働いてもないのに遊ぶなんて」「仕事をして一人前」という社会的風潮が今尚根強い中、「楽しく遊ぶ」ことが他者との絆を結び、自分を尊重していくきっかけとなるとても大切な回復へのステップなんだとは、なかなか周囲に理解してはもらえません。その上、医療や福祉にきちんと繋がっているなかまはごく一部で、病院や行政の窓口で聞く制度や支援の説明は難しく、ひとりぼっちのままのなかまが地域にはたくさん居るんだと教えてくれるのです。
そして寺脇さんはこう言葉を続けます。僕たちは、目の上のたんこぶみたいなもんやと思うんです。気になりだしたら、うっとうしくて邪魔になってどっかへやりたくて仕方ないもんやっていう意味です。でもおかげで、今までよりもっと目を見開いてよく観ようとしたり、痛みに敏感になったりも出来ると思うんです。だから僕らは「TEAM たんこぶ」を創って、行政・医療・福祉関係者になかまの声を届けていきたい。「私たちも一人の人間だ」「一人ひとりが悩みや寂しさを持っているんだ」「作業所など社会資源が以前より増えても、生きやすくなんてなってないぞ」と。
二人の携帯には、なかまからの相談がよく入ります。急いで自宅に駆けつけると、コンセントを挿していないカセットデッキの前で「音が出えへん。壊れてしもた」とうな垂れる姿があったり、「夏休みに子どもをどっかに連れて行ってやりたいけど一人やと不安や」と訴えるなかまに「ほな一緒にいこ。長島スパーランドなんかどう?プールも温泉もあるし」と計画や申込をサポートし、「せっかくの夏休みやん、どっか行かな。僕らも楽しんでくるし」と自費で同行するのです。特別何かをしているわけじゃないし「してあげる」とか「してもらう」とかは嫌だからと。「たんこぶ」の社会的地位と発言力拡大を目指し、今日もサポートが必要ななかまの元へ「どうしたん。大丈夫やで、ひとりぼっちやないで」と、そっと寄り添いに行っているのです。そして笑顔で「気にすんな。お互い様やんか」と声を掛けているのです。
麦の郷では、当事者活動を今までもこれからも大切にしたいと考えています。なかま同士だから言えること解り合えることは当然あり、スタッフが汲み取れない、言葉で上手く表現できない声にならないなかまの想いを聴きとり、みんなで支えそして支えあっていくピアサポート活動はとても重要なものです。
生きていくために、調子を崩さないために、そしてこの街で暮らし続けていくために自ら声をあげる「TEAM たんこぶ」の活動を全力で、そっとサポートしていきたいと思っています。