ほっとけやん 第67話

わかやま新報2012年12月6日掲載

映画を通じて障害者問題の理解を広げる

一般社団法人障害者映像文化研究所 代表理事 加藤直人

和歌山の障害者施設の麦の郷に、この研究所が昨年9月に発足した。崇高な理念があるわけではない。単に麦の郷の映画好きが勢いで社団法人を作ってしまったという程度の代物だ。
きっかけは4年前の2008年に、麦の郷をモデルにした映画「ふるさとをください」が障害者共同作業所の全国組織「きょうされん」30周年記念企画として全編和歌山ロケで製作されたことにある。これが海外含め1000回上映され精神障害者問題が注目された。映画の持つエンタテイメント(娯楽性)を利用して和歌山の意識を変えたいと、大それた思いを持ったのである。
翻ってわが国の障害者福祉の情勢はいかに。実は日本の障害者制度の改革が3年前から大きく動き出している。なぜなら2009年、政権交代で民主党政権が誕生したこと、国連で障害者権利条約が採択され日本も批准を迫られていたこと、そして最大の要因は障害者自立支援法の廃止を求める障害者自身の運動と裁判闘争が全国で激化したことによる。新政権は自立支援法の廃止と新法制定を約束、2010年内閣府に設けられた障害者制度改革推進会議が歴史上かつてない障害者の権利保障を法制化する提案をまとめた。
ところが、改正障害者基本法は「可能な限り」と条項には注釈がつき、総合福祉法提言はほとんどお蔵入りさせられ名称を変えただけの一部改正自立支援法が復活した。財源を理由とした厚生労働省の意向に屈服した形となった。戦後日本の障害者福祉の最高水準を示す障害者総合福祉法提言を3年後の法改正にどれだけ生かすのかが今問われている。
政治だけではなく、文化、関心の面から障害者の社会参加を進めようと、研究所は2つの目的を持っている。一つは冒頭の映像を通じて障害者問題の理解を広げること。もう一つには「障害のある人に他の人と平等に(中略)社会を豊かにするためにも創造的、芸術的、知的潜在能力を磨き活用する機会」(障害者権利条約30条)を提供すること。
重要なのは、障害のない人との平等をあらゆる面で、当たり前に権利として確保すること。つまり障害者ももっと映画を楽しんでもらいたい。当研究所では、昨年の原発事故を取り上げた「立ち入り禁止区域~されどわが故郷」、高校生車椅子バスケットの「ウイニングパス」。聴覚と知的重複障害を持つ仲間のアニメ「どんぐりの家」、聴覚障害者自身が主人公の「ゆずり葉」、精神障害者の就労事業を描くイタリア映画「人生ここにあり」などの上映普及を行っている。
だが残念ながら視覚や聴覚障害、移動困難な方など障害に配慮した上映会には程遠いのが現状だ。県内には映画の普及に日々努力されているさまざまな団体があり、連携する中でバリアフリー環境とともに障害問題を一層浸透させていきたい。当研究所への要望、ご支援をお願いする。