ほっとけやん 第70話
わかやま新報2013年3月7日掲載
和歌山の精神障害者の家族の実態調査がまとまる
県共同作業所連絡会 加藤直人
日本において、精神障害者問題はいまだ重要な社会問題の一つです。厚生労働省ががん、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病の4つに精神疾患を加え5大疾病としたのは一昨年でした。国が障害者政策をつくる基本計画でも重点課題に精神障害者の入院偏重の解消が指摘されています。
では和歌山の精神障害者問題の実態と課題はどれだけ明らかになっているのだろうか、私たち自身で実態に迫りたいと考えて、3年前から精神障害を抱える家族の調査を始めました。
実は、今から5年前、海南市で精神障害をもつ女性がその実母に絞殺される事件が起こりました。母も自殺を図ろうとしたが死にきれなかったのでした。母を追い込んだ精神障害者を抱えた家族の苦悩を知らねばならないと思ったのです。調査主体は、県の精神障害者家族会と共同作業所連絡会です。担当者の手作り調査委員会ですから調査項目づくり、対面調査や集計、そして提言まで約2年を要しました。
調査した家族数は66。数的な傾向は反映しませんが、面談しながら聞き取るかたちでしたから、家族の語った言葉そのものを載せることができました。精神障害の急性症状と起伏の激しい病気に常に対応を迫られている家族は24時間気持ちの休まるときがない、ストレスが肩の荷になって取れない、何かあったら相談できる場、すぐに駆けつけてくれる人、一時休息の場、家族会の場がほしいとの切実な要望が続々出されました。
精神病に対する偏見も大きく、親戚や近所には迷惑をかけられないからと家族が抱え込んでいる状態もありました。病気の正しい認識をするには医療が頼りなのに、信用できなくなった経験もしばしば見られました。将来のためにグループホームや入所施設がほしいとの要望は遠い将来ではなく、明日にでも手にしたい願いであり、施設作りが親家族任せにはできない公的福祉の責任ではないのかと痛感します。
調査をまとめる中で各方面に対して、家族の抱える課題解決に向けた提言も出しました。第1には地域生活支援の充実の一環としてアウトリーチ、積極的地域支援に取り組んでほしい。すでに全国各地で実践されているACTと呼ばれる専門家チームによる自宅訪問での医療、福祉活動の展開です。重篤な障害に対応します。2つ目にはケア付きの生活の場が必要です。親家族の元気なうちに当事者の生活自立を果たします。3つ目には教育の場での精神疾患の正確な理解の普及です。思春期の発病に早期対応、早期治療につなげます。4つ目に家族自身のエンパワーメントを図るための当事者組織の活動の普及です。
最後に国レベルでの精神障害問題の技本的対策を実現するための「心の健康を守り推進する基本法」制定が重要です。和歌山県議会もこの法案の推進決議を上げました。精神疾患が国民の五大疾病に教えられる今こそ、日本の障害者問題の最も遅れた精神障害者分野の解決が期待されます。