ほっとけやん 第88話

わかやま新報2014年9月4日掲載

笑顔が増え、元気をもらえる「ポングリ図画耕作所」

ポングリ図画耕作所 奥野 亮平

アートと手仕事、音楽、ちょこっと農業をメインの工賃にする障害者共同作業所「ポングリ図画耕作所」を2014年6月に開所して約2カ月、まだ少ししかたっていないのにメンバーの変化は目に見えるようにわかるようになったし、家族や周りの人から「変わったね」と言われることが増えました。
絵のうまい人でないと利用できないと思われがちですが、今まで絵なんか描いたことのない人も誘導の仕方一つで素敵な商品になったりする。開所した記念にとメンバー全員の絵を散りばめた「手ぬぐい」を制作。想像以上に大好評で出店する先々でいろいろな人が購入してくれたり、大阪のギャラリーで行われた「手ぬぐい展」への出展依頼までありました。
メンバーの中には今までいろいろな場所で働いていたが、環境になじめず辞めざるを得なかった人も多く、おそらく自分自身が主役になった経験が少なかったかと思います。
自分で作ったモノが商品になる。そして気に入ってもらい買ってもらう。さらにギャラリーの展示会に飾られるなんてことは今まで経験したことがなかったと思います。
メンバーの一人はそれが大変うれしかったらしく「自分なんかの絵が認められてうれしい!」と頻繁に口にするようになり、開所当初に比べて格段に笑顔の時間が増えました。それを見て感じてスタッフも元気をもらえるという好循環になっています。
アートや芸術って何?って考えてみたら「こうあるべき」や「こうしないといけない」ということは一切なく、喜びや楽しさ、そして普段外に出しにくい悲しみや苦しみ、辛さなどの感情を主役にしてあげられる手段なんじゃないかと感じるようになりました。
人生を生きていく上で「アート」というものは一見無くても大丈夫な位置付けにされているように思いますが、作る側は「感情を吐き出す」という点、見る側は「感情を受け取る」という点で誰もが心を満たすための重要な役割だと確信しました。
音楽の面では「ちんどん」という日本の伝統文化を取り入れて地域で宣伝活動、保育園などのお祭りの盛り上げ役をすることで、また自分も周りにも元気を与えることができます。
記述上、「障害者」と書くことが多いですが、選択肢を増やしてあげ、一人ひとりの気持ちになってサポートすることで彼らはゆっくりでも前に進むことができて、行く手を阻む障害はなくなっていくのではないでしょうか。
この作業所を始めて良かったと一番思う点は、メンバーの姿をいろんな人に発信していくことができます。生きにくくなっていくこの世の中で、いろいろと抱えて生活をしている人たちに「人生は楽しい」「生きていくのに値する世界」と伝えていける可能性があることです。生活をアートし、人生を耕していけるような場所にしていきたいと思っています。