ほっとけやん 第97話
わかやま新報2015年6月4日掲載
誰もが輝いて暮らせる地域を
和歌山高齢者生活協同組合 専務理事 上森 成人
学生時代に、「テレビさん、サヨウナラ」という短編小説を読みました。身寄りのないお年寄りの女性が、アパートでひっそりと亡くなっていく物語です。若く楽しかった時代を思い起こしながら、明け方にたった一人で亡くなっていく。老後連れ添ったのが一台のテレビ、唯一の友達に「ありがとう、サヨウナラ」と伝えて。
大学を卒業して、和歌山高齢者生活協同組合の設立運動に参加しました。高齢期は、人生の完成期。その完成期を輝いて生きよう!が合言葉です。元気なうちから、仲間づくりをし、培った技能や経験を生かして社会参加もする。そして、困ったら助け合う、共同互助の精神で活動する団体です。
忘れられない出来事があります。数年前、中之島にある事務所のすぐ近くのお年寄りが、亡くなって数日後に見つかりました。しばらくして、別のお年寄りが自ら命を絶たれました。お二人とも、顔見知りの方でした。マスコミで「孤独死」が騒がれていた頃のことです。「テレビさん、サヨウナラ」が、すぐ身近なところで起こったことに、衝撃を受けました。
今、和歌山市東部の山口地域で、サービス付き高齢者向け住宅づくり(8月中旬オープン)に取り組んでいます。医療費がかさむということで、病院で長く過ごすことはできません。共に支え合って地域で看取る。そんな時代に、自宅に替わるついのすみかとして、取り組んでいる事業です。すみかですから、施設ではありません。入居者の「暮らし」を支えながら、人生の最期に、「みなさんに出会えてよかった。ありがとう、サヨウナラ」、と感じていただける住まいにしたいと思っています。
この住まいと同じ敷地に、「ささえ愛センター」(6月オープン)もつくっています。和歌山市から応援をいただき、建設を補助していただきました。「ささえ愛センターって何をするところ?」と、よく聞かれます。一言でいうと、「ひとりぼっちの高齢者をなくす所」「みんなでつくるみんなの居場所」です。地域の元気な高齢者が集いはじめています。一緒に食事をしたり、お茶を飲んだり。健康づくりや趣味の教室など。集まってつながって、困ったら助け合うところです。センターですから、ここを拠点に、空き家などを活用して、高齢者の居場所を、地域にたくさんつくっていこう、と思います。
ついの住まいも、ささえ愛センターも、そして、高齢協の活動のこれからにおいても、大事にしたいのは、「誰もが輝いて暮らせる共生の地域づくり」です。高齢協という団体は、障害者運動に取り組む「麦の郷」から生まれました。そして、高齢協は、高齢者だけではなく、支え合いの活動を、障害者や子ども、生活困窮者にも、広げていきたいと思っています。
地域は、いろんな人が関わりあって共に暮らすところです。いろいろな関わりを豊かに広げることで、福祉は豊かになる、人は輝ける、と信じます。元気な高齢者が、障害者の就労を支援することもできる、生活困窮家庭の子どもの学びを支援することもできる、子育てだって支援できる。高齢協を設立して、16年。「高齢者が増えると地域が豊かになる」、それを実現するための取り組みを、これからも続けたいと思います。