ほっとけやん 第103話

わかやま新報2015年12月3日掲載

地元で金メダル「ワシ、メーンになれた!」紀の国わかやま大会

社会福祉法人 一麦会 くろしお作業所 城 喜貴

2015年10月24~26日、第15回全国障害者スポーツ大会「紀の国わかやま大会」が開催されました。くろしお作業所からも仲間の宮本高志さんが壮年・陸上競技に出場し、50㍍走は4位、立ち幅跳びは1位に輝きました。
表彰式後のインタビューで「まさか、地元で金メダルを取れると思わなかった」。そう話す唇は所々皮がめくれあがり、頬はやつれ疲労困憊(こんぱい)の表情でしたが、目は輝き力強く応えていました。 宮本高志さんは、くろしお作業所に通う56歳の男性の仲間の方です。知的障害があるのですが、ミシンや電動のこぎりが得意で、木工作業では「ワシがおらんと仕事にならん」というほど手先が器用です。一方、若い頃から家族と離れざるを得なくなりグループホームに住む彼は、その寂しさからなのか無口で非常に繊細で傷つきやすく、いつも伏し目がちでした。仕事は「頭が痛いから」と休みが多く、部屋にもこもりがちでした。そんな彼に参加してみようと誘ったのが障害者スポーツでした。
2005年の県大会に参加。50㍍走で金メダルでした。その年の岡山県の全国大会にも選ばれ、初参加にして立ち幅跳びで銅メダルを獲得しました。重圧と慣れない集団生活に体はやせ細りくたくたの高志さんの口から出た言葉は「疲れたけど楽しかった!」でした。「応援に行ったホームの仲間たちをはじめ、選手団、現地のボランティアやいろんな人たちと関わり支え合えたことがうれしかった」と、にこにこしながら話してくれたのです。まさかのうれしい返事でした。
その後も毎年県大会に出場し、50㍍走は5連覇。2009年には再び全国大会「トキめき新潟大会」で立ち幅跳びで銀メダルを勝ち取りました。
その5年後、和歌山大会の強化選手に選ばれました。計り知れないプレッシャーを感じていました。「全国大会の地元の応援はすごいから」。今まで2回の全国大会で、地元代表がどれだけ期待されているかを肌で感じているからこその重圧でした。
大会に向かう車の中で過呼吸になり、何度か引き返そうと声を掛けても、「行く!」と言い続けました。
「高志!がんばれ!」皆の声援を味方に…そしてついに…金メダル!
今回の金メダルは、もちろん一番の喜びです。でも、もっとうれしかったのは寂しかった彼を温かく包む掛け替えのない仲間がいることを高志さんが実感できたことでしょう。
「ワシ、メーンになれた」。はにかみながら見せる笑顔は輝いていました。
そして、来年の岩手大会に向けて走り出しました。人の温もりにもっと触れたいから…。