ほっとけやん 第151話
わかやま新報2019年11月21日掲載
ハートフルハウス創(はじめ)10周年企画 「あなたと創る文化祭」
麦の郷ハートフルハウス創 野中 康寛
「Heart Join Move(こころをつなげて動きだす)」―。これは、ひきこもり者社会参加支援センターとして事業を開始した時に創(はじめ)に通うメンバーたちと一緒に考えだした活動のテーマです。ひきこもりを経験した当事者の多くは、誰ともこころがつながっていない孤独な状態になります。過酷な働き方の中で息切れをした人、みんなと違う自分に悩み心を閉ざした人、競争社会の中で疲れ果て社会や人を信じられなくなった人、そんな状況の中で人とつながることに対して恐怖感や不安感に苛まれひきこもらざる得ない状況になります。
そこで創ではこのつながりを再び創(つく)るためにさまざまな集団での活動を大切にしています。もちろん相談や訪問等の個別支援は大切ですが、どうしても個別支援だけでは“本人が動くため”という個人にだけ着目した関わりになってしまいます。集団の中で何らかの役割があり、自分もいつかその集団に参加してみたいと思えたり、お互いが自然に緩やかにつながっていく…そんな場所が創です。
創では、ひきこもっていた時にやりたいと思ってもできなかったことを実現してみようという試みを行っており、その中でさまざまなサークル活動が生まれています。ちょうど事業を始め10周年ということもあり、これらの取り組みの表現の場として文化祭を企画しました。
つくられたものではなく“みんなが創りだす”そんな思いを込めて文化祭のタイトルを「あなたと創(つく)る文化祭」と決め、昨年の秋から準備を始めました。
しかし、2019年度から「ひきこもり者社会参加支援センター事業廃止」という通達が和歌山県より出され、生活困窮者の事業である「ひきこもりサポート事業への移行」ということでした。
私たちはこれまでひきこもり者への社会参加を進めるため、自分の存在が認められ安心できる居場所やそれぞれが主体となれるサークル活動、単に糧を得るための働く場ではなく、支え合い共に創りあげる緩やかな働く場など、社会との接点づくりを総合的に行なってきました。この事業の廃止で、今まで創が大切にしてきた事を根底から否定されたようなそんな辛く悲しい気持ちになりましたが、当日は何と県内外から250名を超える人が10年の集大成を観に来てくれ、多くの人から激励や感動の言葉を頂きその悲しさは跡形もなく消え去りました。
トークセッションでは、3名の当事者が自分史を語り、白か黒かという極端な発想だったがグレーの部分も認める事ができるようになったという気持ちの変化を話してくれたメンバー、しみじみと10年の記録を振り返るスライドショー、台詞が飛びそうになりながらも声を張り役柄を演じきった演劇部、足を震わせながらも会場を驚きの渦に巻き込んだマジック部、対面で自らが作ったアクセサリーを丁寧に説明しながら販売した手芸部、会議を積み重ね趣向を凝らし展示をした写真部、初の模擬店販売を行ったメンバー、みんなが楽しめるようにと工夫された遊びのコーナー、受付や裏方の準備を行ったメンバー。ひとりひとりが役割と責任と主体性をもち、光り輝く姿…これこそが一番重要な場だということを再認識したと同時に、この輝きを曇らせてはいけない、さらに輝きを増すためにみんなと一緒に、どのような大きな荒波や逆行があったとしても、それをはね返し訴え戦い続けること、そして満天の星空のようにそれぞれの輝き方ができる、そんな場所が「あなたと創る文化祭」によって生まれました。