ほっとけやん 第155話

わかやま新報2020年3月19日掲載

仲間の余暇をほっとけやん

麦の郷居住福祉事業所 武田 賢二

 昨年2月に和歌山市において、わされん(和歌山県共同作業所連絡会)主催の研修会「和歌山県作業所問題研究交流集会」が開催されました。その全体講演で、全国障害者問題研究会の薗部英夫氏の報告の一例によると、デンマークに住む身体に重度の障害のある青年は週末にヘルパーを伴い、イギリスのサッカーチームの応援へ泊まり込みでいくことが保障されているという話を伺いました。社会保障の先進国とはいえ、この話はかなりの衝撃でした。私自身、グループホームのスタッフを長年やっていて、仲間の旅行といえば作業所などの1泊旅行や、帰省時に家族が同行していく旅行が一般的な認識であったからです。

 他にも薗部氏の講演の中では、パワーポイントを交え、旅行だけでなく仲間が文化的な取り組みを行った様子であったり、ダンス大会に参加した様子であったりと実にいきいきと楽しく暮らしている写真が次々とでてきます。改めて「暮らす」ということは食住を整えることだけでなく、その人が自分らしく生きるため、好きな時間に好きな取り組みを行うことがしっかりと保障され、そうした余暇活動や人間関係において人生が充実されることが大事であることを理解しました。ぜひこのような取り組みを麦の郷でもできればという思いにさせてくれました。

 麦の郷のグループホームで暮らしている稗田雅三(ひえだまさみ)さんという男性の仲間がいます。年1回の作業所旅行を非常に楽しみにしている方です。その稗田さんに「ヘルパーといっしょに旅行などしてみては?」という問いかけをしてみました。経験したことのない提案であったため、より具体的に説明すると、その返事は「できるのであれば!」というものでした。それからは関係機関のヘルパー事業所などとの連携や調整、新幹線やホテルの予約などの役割分担を行いました。しかしこの計画を進めていくと、日本とデンマークの違いは明らかになります。グループホームに入居されている方のヘルパー利用は、障害の重さや理由など関係なく10時間までという上限が設けられています。稗田さんがヘルパーを伴っていくことで多くの自己負担が発生しました。60歳を過ぎた方が旅行に出かける。そんな当たり前のことを行うことで、障害者は健常者にはない不条理があることも改めて思い知らされました。

 そんな課題も解決しながら昨年10月に2泊3日の広島旅行が実現しました。旅行から帰ってきてから広島スタジアム、安芸の宮島、広島焼など満喫した写真を見せてもらいました。どの写真もデンマークの少年に負けない良い顔で写っています。さらに悔しいことに、グループホームでいる時の顔とはまた違います。やはり余暇は大事だな、企画して良かった…。そんな思いにさせる写真ばかりでした。

 麦の郷では、今後も余暇の取り組みを深めていき、そのひと、それぞれに合った余暇を仲間といっしょに考えていきます。そのときは、デンマークの少年や旅行のときの稗田さんのような「いい顔」でいっぱいになっていることを信じて。