ほっとけやん 第159話

わかやま新報2020年7月23日掲載

冊子『ほっとけやん つれもていこら』の完成〜過去を未来にせぬように〜

社会福祉法人一麦会(麦の郷)麦の郷印刷 岡﨑宏江

 「ほっとけやん」は知らない(ほっといた)ことが問題なのではありません。知ってもらうことと、知ることが大切なのです。麦の郷の職員には「ほっとけやん」(放っておくことができない)を発信していく使命があります。これからの麦の郷を背負っていく職員に向けた麦の郷の歴史を残した冊子『ほっとけやん つれもていこら』が完成しました。孤立無援であった仲間たちが市民としての生活の場、働く場、そして居場所を得ることができたのは、当事者のこころからの叫びとその努力に力強く応えてくれた地域の方々の温かい応援があったからこそです。当事者たちの声や想いを多くの方に伝わるように、まず職員がその過去を知り未来につなげていかなければなりません。私自身もこの冊子の編集を通じて麦の郷を学ぶことになりました。

 福祉の専門知識のない私が麦の郷印刷に入職して8年、これまで、他の印刷会社の方々に劣らないように営業として駆け回ってきました。入職当時に印刷のいの字も知らない私を指導してくれたのは先輩の福祉職員、そして納得できる商品を創りあげてくれているのは、当事者である障害者と共に働く職員のチカラがあるからです。その当事者たちには仕事の愚痴をこぼせる仲間がおり、休日には趣味に没頭したり、翌週の仕事に向けて体調を整えたり、仕事の予習を事前に行ったりと、それぞれの自由な時間があり、ごくありふれた休日を過ごしています。このような日常になるまでには先駆者たちの協力があったからこそです。

 あなたは障害者について何か知っていますか。友人に障害者はいますか。障害には見える障害と目には見えない障害があることを知っていますか。障害者のことを詳しく知らないのに自分の障害者のイメージで障害者のことを語ったことはありませんか。

 かく言う私も最近まで福祉への興味もなく過ごしていましたが、疑問と興味を持ち自分の言葉に責任が持てるように、麦の郷の歴史を学ぶことにしました。そこで、今もなお声を上げることができず、日の当たらないところで存在を隠されている人が大勢いるという残酷な現実と過去を知ることになります。そこで私でも彼らの代弁者となることができないかと、自分なりの方法を現在模索しています。ふと、気が付くと私も、過去を未来にせぬように「ほっとけやん」の第一歩を踏み出しているようです。

 『ほっとけやん つれもていこら』は麦の郷本部で読むことができます。