ほっとけやん 第160話

わかやま新報2020年8月20日掲載

ソーシャルファームピネル 25年の歩み

ソーシャルファームピネル 所長 山本 哲士

 全国初の精神障害者福祉工場として開所してから25年。前身である(有)障害者自立工場(以下自立工場)開設から32年。ソーシャルファームピネル(以下ピネル)は何を残してきたのでしょうか。

 障害をもつ人達(以下メンバー)の社会資源がほとんどなかった時代、寄付を募り、自分たちで立ち上げたクリーニング工場、素人集団が必死こいて土台をつくったのが自立工場です。そして、ピネルへと移行していきます。クリーニングだけではなく、印刷業や食品加工業など事業展開し、各々の事業が独立。ピネルはクリーニング一本で再スタート。その頃に私はピネルへ異動してきました。

 ピネルは、まず障害者、特に制度が遅れていた精神障害者の本格的な労働に挑み、失敗を繰り返しながら、メンバーが働く姿で制度の壁を打ち破ってきました。そこにピネルの原点があります。2013年度には、売上1億円を達成し順調に推移してきたという反面、福祉実践の現場で、労働の比重が重くのしかかり、メンバーもスタッフも、がんじがらめになっていたのも事実です。売上を伸ばしていくのは、そう簡単ではありません。最賃以上の給料を支払い、自立した生活を送り、自信をつけ、仲間を持ち、励ましあい、自己実現する、そんな実践を目指してきました。ある程度、それが実現してきたように感じた時、このままでいいのかという疑問。ピネルが目指す実践は本当にできているのか…。

 企業のような生産性向上と、メンバーへの福祉的実践のバランスをとり、労働環境の操作により、個々の能力を引きだす。そのバランスが難しく、毎日苦闘する日々。悩み議論しあった結果、3年前から、売上を少し減らしてでも実践に軸足を置いて、バランスをとる方向にシフトチェンジしました。売上を減らすというのは経営的には勇気のいることでしたが、お世話になっている取引先企業との話し合いを重ね、現在は少しずつバランスをとれるようになってきています。ただ、究極のバランス調整は、これからが本番です。

 最後に、25周年を迎えられたのは、たくさんの方々のご支援、ご協力があったからです。そして、これからも、支えられながらピネルらしい実践を積み重ねていきたいです。共に働くメンバーとともに…。