ほっとけやん 第161話

わかやま新報2020年9月17日掲載

男性の育児休暇 経験して感じた社会の壁

はぐるま共同作業所 和の杜 大末 翔平

 「育休を取得したい」。小泉環境大臣の発言が世間をにぎわせたのはことし初めのことでした。男性の現職大臣が育児休暇を取得する。今まではあり得なかったことが現実に起き、さまざまな反応がワイドショーを盛り上げているのを見て、「これで男性の育児休暇への風向きも少しは変わるのではないか…」と感じていました。その時、私は、昨年初夏より取得した育児休暇の真っ最中だったからです。

 ところで、皆さんは日本の男性の育児休暇の取得率をご存じですか?平成30年度の調査によると、男性の育児休暇の取得率は民間企業で6.2%、地方公務員で5.6%となっています。それに対して福祉大国といわれるスウェーデンやノルウェーでは男性の育休取得率は8割を超えています。男性新入社員の8割が育休取得を希望しているとのデータもある中、なぜこのようなギャップが生まれるのでしょうか?

 まず職場や社会の風土が考えられます。男性が育休を取得したいと申し出ても上司や同僚に理解されなかった、会社自体がそういう雰囲気ではなかった、という声をよく聞きます。幸い私の職場では上司がとても理解してくれ、同僚やなかま(障害当事者)の皆さんも快く応援して送り出してくれたため、この点では困ることはありませんでした。ですが、実際、育児休暇中は奇異の目で見られることが多々ありました。“男性は仕事、女性は家庭”という古い考え方(性別役割分業)がいまだにまかり通っているからです。「お父さんきょう仕事はお休みですか?」、「次の検診はママが来られますよね?」そのようなことを言われたのは一度や二度ではありません。それほど育児は女性がするものという固定観念はまだ社会に染みついているのです。

 また、外出中に子どもがミルクを欲しがった時、せっかく授乳室を整備している施設でも、“男性の入室はご遠慮ください”の札を見て何度も落胆しました。もちろん防犯上の理由はありますが、その度に人が往来する外の通路や車まで戻って授乳しなければなりませんでした。そんな設備上の理由も男性の育児のしづらさを感じました。

 5月、私は約10カ月間の育児休暇を終え、職務に復帰しました。今となっては「本当にいい経験をした」と思っています。産まれたてのわが子が一番成長する日々を妻と共に支えることができたこと、これは私の人生に多大なる影響を与えてくれるはずです。子どもが教えてくれる“無償の愛”は自分にも、仕事にも、社会にも少なからず影響します。そんな経験をした父親がたくさん増えれば、この国はもっと優しい社会になるのではないでしょうか。そして、育児参画をした父親たちが声を上げれば、男性・女性に関係なく、子育てがしやすい社会環境が整っていくのではないでしょうか。     

 男性の育休取得率を上げるには、職場の同僚やきょうだいなどの身近な人が育休を取ったことから起きる「伝染」がキーワードだそうです。これから父親になる皆さん、自分のためにも周りのためにも勇気を出して育児休暇を取得してみませんか?