ほっとけやん 第166話

わかやま新報2021年2月11日掲載

『和歌山ひきこもり支援ネットワーク』発足         ~ひきこもり支援の充実を求めて~

麦の郷 ハートフルハウス創 施設長 森橋美穂

 2004年から全国に先駆けて県独自で取り組んできた「ひきこもり者社会参加支援センター事業」が2018年度をもって廃止となり、その後は国事業である生活困窮者自立支援法「ひきこもりサポート事業」へと移行しました。しかし「ひきこもりサポート事業」は市町村からの委託事業となっており、市町村によって財政面や方針もさまざまで地域間の格差も大きく十分な支援体制が整っていない地域もあります。また委託市町村外からの相談や居場所利用についても難しくなり、希望の事業所に行けないという課題も残っています。

 私たち民間団体はこれらの問題に直面し、和歌山県下の各地域で起こっている課題点や実践の情報共有と、そしてこれまで創ってきた和歌山県のひきこもり支援を後退させることなく今後の支援がより充実したものになるために、この度(1月19日)「和歌山ひきこもり支援ネットワーク」を発足しました。

 和歌山でのひきこもり支援を長年けん引してこられた、NPO法人「エルシティオ」理事長の金城さんの冒頭あいさつでは、「生活者としての支援者をどう保障していくのか…」。これは、ひきこもり支援が制度的にきちんとした位置付けになっておらず、個人の思いで相談や居場所を開設している所や、少ない補助金などで支援者がボランティアベースで成り立っていることを意味しています。

 市町村によっては財政状況により国から提示されている国庫補助基準額より大幅に少ない予算しかない地域もあり、職員一人も雇えないような状況で運営されている団体もあります。スタッフも高齢になっており、今後の支援体制を整えて行くにしても、若い職員を雇えるような人件費も運営費もない中でどのように維持していけば良いのかという問題が多くの事業所で起こっています。ひきこもり支援をする支援者自身の生活が保障されないような補助金・委託金ではこの先の支援が継続していけないという現状があります。

 ひきこもり支援は単に居場所につなげ就労につなげたら良いという考えや、相談者や居場所利用者が何人といった実績数値で予算を算定するものでもないと思います。

 10年間訪問に通い1度しか会えなかった人がようやく自分のタイミングで居場所に出てこられるようになったり、10年以上居場所に通いながら自分の存在価値や自分らしい生き方の模索や探求をしている人もいます。

 社会に対しての不安感を抱き、しんどい思いをしている人たちに寄り添い、「いつでも待ってるよ」という発信をしながら、居場所が“いつもここにある”という安心感があるからこそ、つながりを持てたのだと思います。

 “行きつ戻りつ”しながら、ゆっくりと心身の体調を整え、自己肯定感や自信を取り戻していくための“時間の保障”と“人の支え”が必要であり、それが“居場所の役割”ではないかと思っています。

 競争的価値観の下、労働生産性や自己責任を押し付けられる日本の社会情勢により、ひきこもらざるを得なくなった背景をしっかり捉え、ひきこもりは本人の問題ではなく社会の問題としてどう支えていくか、“誰もが安心して頼れる社会”“多様な生き方が認められる社会”をどう創っていくかが今後の課題です。そのためにはひきこもり支援が充実した制度となり、安定して存続していくための公的な保障が必要だと思います。