ほっとけやん 第169話
わかやま新報2021年5月13日掲載
「おはよ♪プップー♪くろしおさん♪」 毎朝目覚めとともに、お迎えの車が来てくれるのを楽しみに待っています。
社会福祉法人一麦会 くろしお作業所 利用者保護者 新宅 嘉代子
菜央は重度の精神運動発達遅滞と、てんかんのある天真爛漫な女の子です。人と関わるのが大好き!お歌が大好き!ドライブも大好き!何より食べることが大好き!です。
支援学校では、12年間たっぷりの愛情を注いでもらいながら、お散歩にクッキング、菜園やモノづくり、先生やお友達との関係づくりなど、たくさんの学びと経験を積みました。卒業後は、学校で培った力を生かせる場所へ行けたらいいな、と実習を回りましたが、支援の手が足りないという理由で決まらない日々が続きました。大好きな学校とデイサービスを卒業して、行き先がなかったらどうしよう…と焦りました。
親の願いはただ一つ、学校と同じくらいに大好きと思える場所に行けること。
そのためには、いろいろな経験ができること、愛情をもって接してくれることが絶対条件でした。菜央は関わってくれる人に敏感で厳しいのです(笑)。
そんな頃、私は、顧客であるくろしお作業所さんへ伺う機会がありました。私の仕事の合間に聞こえてくるスタッフさんの会話や空気感、なんてアットホームで愛情にあふれた施設なのだろう!ここに通えたらいいな!と思いました。娘をここに!と気持ちを抑えられず、仕事終わりに空きはありますか?実は娘が高校生で…」と話しました。びっくりされたことと思います。
実習へ行くことになった日は、お買い物とクッキングでした。つかみはOK!その後の数回の実習も菜央の心をつかむ内容で、楽しく終えました。丁寧に関わってくださったおかげで、菜央語録に「くろしおさん」が追加されました。「卒業後、来てください」とお返事をいただいた時は、本当にうれしくて安堵(あんど)しました。
しかし、関わり方や体調の変化の把握、介助、送迎など、菜央を受け入れてもらうにはハードルがいくつもあったと思います。私が声を掛けたばっかりに、断れず手を煩わせてしまっているのではないかと思いました。正直、申し訳ない気持ちが大きかったです。
そんな思いを抱えながら、迎えた引き継ぎの日。不安は安心へと変わりました。たくさんあったハードルを菜央を迎えるために前向きに検討して、体制も整えてくださっていました。「徐々にお互い慣れていって、知っていって、何年かたった時、『菜央ちゃん、あの頃はこんな大変なこともあったなぁ』って笑って話せたらいいなと思っています」という施設長さんのお言葉に胸がいっぱいになりました。
入所して1カ月。初めは緊張と戸惑いがあったのか、帰宅後は気持ちが不安定な日が続きましたが、今では新しい生活リズムに慣れてきたように思います。連絡帳に書いてくださっている報告を読むと、菜央は聞きながら思い出して笑顔になり、また次の日に行くことを心待ちにしています。仲間として迎え入れてくれた皆さんに、感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも、たくさんの出会いと経験が菜央の人生を彩ってくれますように。