ほっとけやん 第172話

わかやま新報2021年8月5日掲載

「地域のお医者さんが出張ワクチン!」

はぐるま共同作業所 和の杜 施設長 大中 一

 ことしも雨の少ない梅雨かと思われていた6月初旬、新型コロナワクチンの優先接種のお知らせがようやく届きました。長く続くコロナ禍の現状を改善するための唯一の手段ともいえるワクチン接種の順番が私たち福祉施設にもとうとう回ってきました。

 はぐるま共同作業所和の杜では事業所独自のアンケートを行い、接種を希望する23名の利用者を対象に医療機関での集団接種を検討していましたが、実際のところは全員が接種場所まで移動して接種の後、副反応などの様子見時間や他の医療機関利用者の方々への配慮等々でクリアするハードルは簡単なものではありませんでした。

 そんな最中、グループホーム利用者の皆さんが地域の医院でワクチンの接種を行ってもらえるという情報が舞い込んできました。その医院は和の杜から徒歩5分です。早速医院に問い合わせを行ってみますと「麦の郷さんよく知ってますよ!予防接種大丈夫ですよ」とうれしい返答が返ってきました。接種希望23名の集団接種について時間帯を分けたり半数ずつ2日に分けるなど医院と調整を進める中、「そちらに全員が接種できるスペースがあれば先生と看護師で射ちに行きますよ」とのありがたい提案が医院からなされました。思いもよらぬ展開です。国内でようやく始まりかけていた職域接種です。

 第1回目の接種当日、きょうは午後から和の杜にお医者さんと看護師さんがやってくるということでみんな微妙にソワソワしています。午前は通常のお仕事の後、はぐるま給食さんにご協力いただき早めの給食をしっかり食べてとうとう集団接種です。休憩室の窓をオープンにして冷房をマックスに設定、できうる限りのソーシャルディスタンスを考慮した机の配置ともちろん全員マスク着用。先生を待ちます。しばらくすると先生と看護師さんがワクチンを持ってやって来ました。簡単なごあいさつの後、看護師さんは接種の準備を始めます。先生が小声でスタッフに尋ねます。「注射が嫌で騒いだり暴れたりする人はいませんか?」スタッフも小声で答えます。「はい、大丈夫です」「分かりました」初めての環境に先生も慎重に対応してくれます。先生の聴診器の後、看護師さんが注射するという流れで接種自体は実にスムーズに行われ23名の接種が無事終了しました。ワクチンを接種した人はしばらくゆっくり過ごしたのち帰宅していきます。きょうは特別にお迎えにみえる保護者もいたりと、不安と緊張の一日はなんとか過ぎました。

 麦の郷を知ってくれていて、事業所が置かれている状況に合わせて対応してくれる。「頼って応えてくれる」。一番近い医療が地域医療で頼もしくありがたい存在だとつくづく感じた一日でした。