ほっとけやん 第180話
わかやま新報2022年3月31日掲載
「ノウフク・アワード2021受賞報告!」
ソーシャルファームもぎたて 中原 力哉
あるときに耕作放棄地の梅畑で農作業をしていると、通り掛かりの近隣農家さんに「自分たちが畑で倒れたときに気付いてくれる人ができて良かった」と声を掛けられました。その後にその言葉の意味を知りました。農業従事者の死亡事故は建設作業における事故よりも2倍、全産業の10倍と危険が伴う作業が多いことを。昔、小規模農家が隣り合いながら作業をしていた時代には近隣農家同士は相互に目が行き届く存在でありました。休耕地が増えた現在では誰にも気付かれずに事故などが起こってしまう不安感は大きいのです。
和歌山県の北東部、果実が年間を通して実る自然豊かな紀の川市。私たちの事業所はここ紀の川市の紀ノ川農業協同組合という販売専門農協の敷地内にあります。同農協とは「平和で持続的な地域社会をつくる」を共通理念として、お互いの困り事を掛け合わせながら協同して事業を営んでいます。事業の一つとして休耕地を利用した有機農業を行っています。施設から出て農地で作業する障害のある人たちの存在自体が農家の人々に安心感を与え、中山間地域農業においてセーフティーネット(命綱)の役割を担うことができると考えています。
昨今、農福(ノウフク)連携という言葉が社会的に広がりをみせています。ノウ(自然、農林水産業)とフク(人、福祉)を連携させ各々の課題を解決していく取り組みです。その昔から障害のある人たちが農作業に携わる取り組みは全国に点在していました。2010年代に入り全国各地で取り組みが増え中央省庁内でも省庁を横断する形で「農福連携」という言葉が使われ始めました。この背景にはやはり農林水産業(1次産業)従事者の高齢化、担い手不足が深刻な社会的課題として浮き彫りになってきたことが挙げられます。
政府は2019年に内閣官房長官を議長とし農福連携等推進ビジョンを作成。ノウフクを国民的運動としていくため農林水産省が事務局となり、農福連携等応援コンソーシアムという全国初の官民連携ノウフク応援団を設立しました。このコンソーシアムが農福連携に取り組んでいる優れた事例を表彰し、全国への情報発信を通じて他地域への横展開を図るためノウフク・アワードを開催しています。
このたび私たちはノウフク・アワード2021で優秀賞を受賞いたしました。障害のある人たちの権利保障や幸福追求のみならず、食糧自給率の向上や農村の活性化、過疎の山間地域の農地におけるセーフティーネットとしての意義など、私たちの取り組みに光を当てていただいたことに感謝しています。