ほっとけやん 第185話

わかやま新報2022年8月25日掲載

ヤギプロジェクト

ソーシャルファームもぎたて 管理者 中原 力哉

 ヤギたちがふうの丘にやって来たのは、ことし5月。「かぜまる(風丸)」「わか(和歌)」は230件の応募から決まったヤギの名前です。選考理由は「小さな子どもが呼びやすい、親しみを感じる、和歌山や場所のイメージ」と、このヤギプロジェクトを端的に現しています。ヤギの命名を巡っても応募者の皆さんとの心が温かくなる交流があり、ヤギが地域農業と来場者を結ぶ役割をひとつ担ってくれることが感じられました。

 プロジェクトの始動は紀ノ川農業協同組合が運営するファーマーズマーケット「紀ノ川ふうの丘」(和歌山県紀の川市平野927)の駐車場横の雑木林化した場所の環境整備から。紀ノ川農協は古くから、農家と消費者のつながりを大切にするとともに、環境保全型農業や有機農業など、地域の持続可能な社会的課題に取り組んでいました。農協役員さんともぎたてメンバーが共同作業しながら1年かけて飼育エリアへと変貌。ヤギ小屋などは同農協内で廃材となった木製パレットを活用してアップサイクルしました。

 2匹は動物とのふれあいを行うワールド牧場(大阪府河南町)で生まれ、移動動物園なども経験しておりヒトとの信頼が構築されています。ヤギが家畜化されたのは約1万年前。牛よりも古くから飼われていて、チーズやバターなどの乳製品はヤギのミルクから発明されました。ヤギは感性が豊かな動物で人と関わる独特な社会性をもつ動物だともいわれます。胃袋が四つあり、食事は牛などと同じ反すうをする(食べた物を口内に吐き戻して消化しやすいようにかみ直す行動)動物です。反すうしているリズムはスローで穏やか。長引くコロナ禍で疲れたヒトの心身を癒やす力を秘めています。

 草を一日に3㌔以上食べるため、除草剤や草刈機を利用しなくていい「エコな除草」が可能です。草刈り機はガソリンを使用することが多く、CO2の削減により脱炭素にもなります。学校や太陽光パネルの下など除草剤が使いにくい場所でも活躍する他、乾燥しているヤギの糞は堆肥(たいひ)としても活用することができます。

 当事業所の出張所(めぐり)では農薬や化学肥料を使用しない自然栽培に挑戦しています。そこで堆肥化されたヤギの糞を利用した土で野菜などを栽培し、直売所ふうの丘へ出荷し、売れ残りや残菜などはヤギのエサとしたサイクルを構想中です。お客さんがその野菜を購入することで循環型社会への参加にもつながります。堆肥化には、実は長い時間がかかります。大河の一滴のような小さな積み重ねが年月と共に活性化され、豊かな地域社会づくりへとつながると確信しています。2匹のヤギが環境循環型農業のシンボル的存在になってくれることでしょう。