ほっとけやん 第190話

わかやま新報2023年1月19日掲載

障害者権利条約を身近に!

和歌山県共同作業所連絡会(わされん)副会長 鈴木 栄作

 2014年に日本が批准した障害者権利条約には、国がきちんと条約の内容を守っているか定期的にチェックする仕組みがあります。国とその国の障害者団体をはじめとする市民社会団体が提出した報告書(パラレルレポート)をもとに、国連におかれた障害者権利委員会による条約の実施状況についての初めての審査(建設的対話)が昨年8月22日と23日の2日間にわたって行われました。そして、同年9月9日に権利委員会から日本における条約の実施状況に関する評価として、日本政府へ勧告(総括所見)が出されました。

 障害者権利条約は、『条約の魂とも言える「他の者との平等を基礎として」に沿った排除しない=インクルージョンの考え方を求める人権ベースの人権条約であること』『障害のある人を保護の客体から権利の主体として捉え直し、働く、暮らす、遊ぶなど、障害のある人が障害のない人と同等に権利を有し、自分の人生の主人公であること』をうたっています。

 今回の総括所見は、多岐にわたりますがその一部を紹介します。優生思想や能力主義を撲滅するために、津久井やまゆり園事件を検証すること(条約1条〜4条に基づき)、障害のある人への否定的な固定観念・偏見等を排除する国家戦略をつくり、その策定の実施に当たっては障害のある人と十分に話し合うこと(8条)、災害時の合理的配慮の提供を強化するための法改正や仮設住宅その他の支援を障害のある人に利用しやすいものにすること(11条)、精神障害のある人の強制入院制度や強制治療を廃止すること(14・15条)、障害のある人が自分の生活で選択とコントロールを行使できるようにすることや地域で自立して生活するための支援体制を強化すること(19条)、通勤に障害者総合支援法の支援が利用できないという制限を撤廃すること(20条)、障害者団体と協議をして障害年金の額を見直すこと(28条)など、強い要請や勧告がされました。

 これに対し、日本政府の見解との大きな隔たりはありますが、かつて国連では「障害者を締め出す社会は弱くもろい」と言われ、障害者政策の根本的な解決は、社会のあり方とも深く関係することだと捉え、今回の要請や勧告が実現されるよう、多くの市民社会の皆さんと共感していきたいと思います。また、平和で誰もが安心して暮らせる社会を目指して、障害者権利条約を改めて学び直し、インクルージョン社会実現のために、目の前の仲間たちと共に身近な実践や運動を積み重ねていきたいと思います。