ほっとけやん 第191話

わかやま新報2023年2月16日掲載

六星舎のほっとけやん

六星舎 施設長 森 貴孝

 和歌山市にある社会福祉法人一麦会(麦の郷)は1977年3月にたつのこ共同作業所という無認可の作業所として誕生しました。無認可とは運営費などを保証される制度が何も無い状態のことで、多くのボランティアや家族、職員で運営費を賄い、事業を行っていました。これは、一人の障害のある青年の「友達が欲しい、働きたい」との願いに応えたものでした。1989年2月に現在の社会福祉法人一麦会が法人認可され、今では20以上の事業所が和歌山市、紀の川市を中心に活動しています。ことしの3月で無認可時代から数えて46年目になります。

 六星舎は和歌山市舟津町にある麦の郷で10番目にできた就労系の福祉サービス事業所です。就労継続支援B型という制度の下、障害のある方たちがみんな元気に通ってきてくれています。ことしの「県民の友1月号」に「県民の友 点字版」を作成している当法人の麦の郷印刷の紹介がありましたが、この事業を通じて、視力に障害のある方たちの多くが日々通える居場所が無いということを知り、視力に障害のある方たちも参加しやすい事業所ができないか検討を重ねた結果、六星舎が誕生しました。六星舎の名前の由来は点字が六つの点で文字を表現することからきています。

 六星舎が事業を開始して7年目を迎え、最初の頃は視力に障害のある方たちも参加しやすいようにと軽作業を中心に活動を始めましたが、他の障害がある方たちの事業開拓も課題となっていきました。そこで、軽作業と同時に行っていた清掃の事業を少しずつ開拓・拡大を行い、今では県内にある大学や国の機関の委託を受け、日常清掃や定期的な除草・剪定(せんてい)といった活動にも力を入れています。昨年の秋ごろより、市内に本社のある化学工場の会社より、障害者雇用の取り組みで関わりのある当法人の『就業・生活支援センターつれもて』の担当者を通じて、社屋周辺の芝生の手入れや植木の剪定、定期的な水やりの作業の依頼を受けて取り組みを始めています。写真はその作業風景です。

 麦の郷には障害の種別や程度を超えた多くの方が通ってきていますが、就労継続支援B型事業所は利用者に支給している工賃の平均額で8段階の評価を受け、それにより事業運営にかかる報酬の額が変わり、工賃の額が低いほど事業所の収入が少なくなります。障害が重くてなかなか出勤できない方、作業に取り組むのが難しい方がたくさんいるような事業所では、処理できる仕事量が少なくなり、利用者の皆さんに渡せる工賃も少なくなります。事業所の中には、安定して通所できる方のみと契約したり、障害が重くなり通所が困難になった方との契約を解除したりするところもあり、この状態は、麦の郷が理念として掲げる、「どんなに障害が重くても労働参加を保障しよう」としてきた活動に大きく負担が生じています。本来の福祉サービスは、障害が重くても利用したい事業所で安心してサービスを受けられることではないでしょうか。

 私たちの実践の現場と制度との間にはさまざまな矛盾がありますが、六星舎の障害のある方が働きがいや生きがいをたくさん感じることができるよう、作業を通しての地域の皆さんとのつながりを、より一層強めていきたいと思います。