ほっとけやん 第204話
わかやま新報2024年3月7日掲載
2024年度障害福祉サービス等報酬改定から見える福祉のあり方って?
和歌山県共同作業所連絡会 会長 鈴木栄作
去る2月6日に厚生労働省(以下、国)から2024年度の障害福祉サービス等報酬改定の概要(案)が公表され、サービスごとの報酬額が示されました。3月6日を期限にパブリックコメント募集し、3月中には告示される予定です。
国は、改訂について、事業所の人材確保のための職員の処遇改善を図ることが最重要課題とし、その上で障害者支援施設に入所する人が地域で暮らせるよう促し、利用者の意志決定支援を進め、自傷行為のある強度行動障害の人や医療的ケアの必要な人など障害の重度な人の受け入れ体制を整えることなどを主な柱として掲げています。改定の概要を詳しく見ると、障害福祉サービスが多岐に渡るとともにサービス種別ごとの基本報酬が細分化、上乗せ加算が複雑化しすぎていて読み解くには困難があります。告示後の改定に伴うQ&Aが示されないと詳細がつかめず、運営する事業所にとっては次年度の予算が組みにくい状況が生じているのが現状です。なぜ、こんなに分かりにくくするのだろう…?
20年前、社会福祉基礎構造改革の下、それまでの措置制度は解体され、障害福祉は新たな制度へ大きく変わりました。措置から福祉サービスの契約へ、行政決定から自己選択の自由へ、市場原理を導入し、質と量の確保と拡大へと進んでいきました。2006年障害者自立支援法(現在の障害者総合支援法)が施行されてから報酬改定が3年毎に見直されるようになりました。結果、制度改正ごとに福祉サービスの量や選択の幅は拡充していきましたが、事業所の支援内容の質の低下が大きな課題となっています。その解決策の一つが制度や報酬内容の複雑化につながっているように感じます。
当会の加盟事業所も複雑かつ危機的な思いで今回の改定をみています。福祉資源が無かった時代から障害のある仲間たちや家族、関係者と生きる権利や命を守り歩み続けてきた事業所が、現行制度では競争主義や成果主義で評価され自己責任の名の下で存続が危ぶまれざる得ない現状があります。一方、福祉だけが特別じゃない、社会保障費は無限にないのだから成果なき事業所が淘汰されていくのは仕方ない、という世間からの声も聞こえてきます。福祉の法律や制度が障害者の命や権利、そこで支援する職員を守るのではなく“分断”を生むものへと変わってきてしまっていることを痛感しています。しかし、本当にこれでよいのでしょうか。
国は、障害福祉予算が15年間で3倍増と主張し、今回の改定でも改定率が前年比1・12%と評価していますが、そもそも根本問題として、国際的に極めて低い障害福祉予算の水準にあり、OECD(経済協力開発機構)調査が明らかにしているように、各国GDP(国内総生産)に占める障害福祉予算の割合のOECD平均は2%であり、日本はわずか1%にとどまっています。この水準は20年間ほぼ同様であり、そもそも予算規模が小さすぎるのに大きな課題があるではないかと思います。
このような根本問題や課題を身近な地方自治体と共有することが大切だと思っています。今回の改定でも福祉事業所の監督官庁である地方公共団体の事務量はこれまで以上にかなり増大すると考えられます。国が次回2027年度改定に動き始める前に、障害のある方の生活実態が身近にある私たちと地方自治体が現状の行き詰まり感を正しく伝えていくことが、誰ひとり取り残すことのない本来の福祉を取り戻すことにつながるのではないでしょうか。