ほっとけやん 第207話

わかやま新報2024年6月6日掲載

地域と共生する実践を目指して

社会福祉法人一麦会 麦の郷 事務局次長 山本哲士

 「地域共生社会」とは、地域住民や多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会のことを言います。一見、誰もが賛同する内容に思いますが、実際は、そんなに簡単なことではありません。

 麦の郷での地域実践を振り返ると、それは、地域住民との摩擦(反対運動)から始まりました。麦の郷が何者かも分からない地域住民にとって、精神障害者の施設を容易に受け入れることができなかったのは、障害者に対する理解が十分にされていない日本社会の中で、ある意味不可避のことだったのかもしれません。そして、「障害があっても地域で当たり前に生活したい」という願いは、地域住民との交流会開催へと発展していきます。コロナ禍で開催できずにいましたが、5年ぶりに28回目の「春祭り」をこの4月に開催することができました。このような地域との交流は、夏祭り8前年度で終了)など毎年恒例の行事として行ってきました。交流会は、お互いを知るため、触れ合うための手段として、そして地域を盛り上げていく役割も果たしてきたと思います。ただ、これだけでは、地域共生とは言えません。

 地域実践で大切にしてきたこととして、地域の自治会活動があります。自治会の役員を長年務めることで、地域を知ると同時に、お互いの顔と名前を知り、人としての関係性が生まれ、「お互いさま」という関係性に変わっていきます。そして、地域の困り事に互いに協力して対応するなどの、協力関係が構築されてきます。その結果の一つとして、地域の高齢者が寄り合える居場所を地域と協同でつくりました。高齢者福祉は、地域が高齢化していく中で、重要なニーズです。高齢者介護の事業者は各地でできていますが、制度にとらわれない地域の資源を互いに創り出していくことは地域福祉にとても大切なことと感じています。また、コロナ禍で中断していますが、地域の小学校の子どもたちが、麦の郷の見学に毎年来ていました。世代を超えてつながることが未来の地域社会への展望につながると思います。

 「地域共生社会」の完成形というものは無くて、まだまだ創り続けていかなければいけないことだと思うのと同時に、もっと多様な主体が参画して、一人ひとりを大切にできる地域・社会を創造していく実践をしていきたいです。地域とともに…。