ほっとけやん 第208話
わかやま新報2024年7月4日掲載
障害者雇用の現状について
社会福祉法人 一麦会 障害者就業・生活支援センターつれもて センター長 氏原嗣朗
何のために働くのですか?
この質問に真っ向から答えるのは案外難しいのかもしれません。「お金のため」という最もシンプルな理由は、なんとなくそれだけでは不十分で、「やりがい」や「自己の成長」といった、分かりやすい前向きさを求められる、目に見えない圧力のようなものを感じます。とはいえ、お金を稼ぐことにより個人の生活が成り立ち、その個人たちが消費活動を伴う生活を営む集合体となって社会が成り立っています。社会の構成員として「お金を稼ぐ」ことはとても重要で、それが全体として豊かになる方法ですので、「お金のために働きたい」と、もっとためらいなく言えるようになれば良いのにと思います。それは、障害のある人だって同じです。どのような生活を送りたいのかは人によって異なりますが、働いてお金を稼ぐことは、その人の生活を豊かにするための一つの手段であることは間違いありません。
2024年4月から、民間企業の法定雇用率が2.5%に引き上げられました。私がこの業界で働き始めた約20年前は1.8%でした。この20年の間に0.7㌽上昇したことになります。統計資料によると、民間企業で働いている障害のある人の数は、2004年の段階では約26万人でしたが、2023年には64万人余と、約2.5倍に増えたことになります。働ける場が増えたことは良いことですが、その詳細については注意深く見ていく必要があります。
多くの人にとって「働く」とは、どこかの企業や組織など、いわゆる「カイシャ」に雇われて仕事をすることを指します。働いていれば、何かと困る場面があるでしょう。例えば、指示される業務が難し過ぎる、業務量が多くて時間内に終わらない、職場の暗黙のルールが分からない(しかも誰も教えてくれない)、話せる相手がおらず仕事中に相談できない、苦手な上司や同僚がいるなど…。
他方、実はカイシャも、雇用に際して不安を感じたり、雇い入れた後に困っていることがあるのかもしれません。例えば、障害者手帳を持っていることや等級は確認したが、どんな障害なのか分からない、仕事にどんな影響があるのか想像がつかない、面接の時には「できます」と言っていたことが、実際には対応できなかったなど…。
このように、どちらも不安感や困り感を抱えながらも、お互いに言い出せず、時間の経過とともに両者の間に溝ができ、最終的には退職となってしまうようなことが、そこかしこで起きているのかもしれません。
私が所属する「つれもて」では、働きたいと考える障害のある人の就職活動の支援や、働いている障害のある人と、障害のある人を雇用するカイシャの間に入り、雇用関係を継続させていくことの支援、働くことに付随する生活面の支援などをしています。
少子高齢化が進み、県内の人口は減少し続けています。それに伴い働ける人の数も減っていきます。これからは、障害のある人を含めた今まで働けていなかった人たちを、いかに戦力として活躍してもらうかがポイントになります。今後の私たちの役割は、「就職につなげる」ことから、働く人もカイシャも「心地よく仕事が続けられるようにする」ことにシフトしていくのだと思っています。