ほっとけやん 第211話
わかやま新報2024年10月3日掲載
防災訓練を「楽しいイベント」に
麦の郷和歌山生活支援センター 溝口大輔
風、豪雨など、毎年のように自然災害が発生する日本において、防災対策や訓練は非常に重要な活動です。特に支援を要する障害者や高齢者等、自力で避難することが困難な方は災害時に取り残されてしまうケースが多く、2011年の東日本大震災では、障害者の死亡率は健常者の2倍に上ったようです。
大きな災害の遭遇した際、障害者自身がどのように身の安全を守るか。支援者はどのように行動をするのか。麦の郷和歌山生活支援センター(以下、「支援センター」)では同じ館内にある就労継続支援B型事業所むぎピースと防災について考え、訓練内容や備蓄の見直し等を常に行っています。
今回は避難訓練の内容を見直しました。何度も同じ内容の訓練を繰り返し、避難の手順を身に付けることも大切ですが、慣れてくると緊張感が欠け、防災に興味や関心がなくなるのではと感じています。支援センターでは、訓練の日に偶然その場にいたからという流れで参加している方も多くいます。それならまずは自分から興味や関心を持ち、楽しんで参加してもらえるようにしたいと考え、館内に備蓄しているレトルト食品や缶入りのパン、ブロックタイプのバランス栄養食、アルファ米などの保存食を実際に食べて避難生活の一部を体験してもらう「食事の避難訓練」を企画、実施しました。
当日、約30人の参加者の前に小分けした食材を並べました。早く食べたくて既にお皿とスプーンを持っている方もいましたので、長々と防災についての話などはせず「湯ではなく水で戻したお米や水分の少ないパンです。もしもの時のリアルな食事を体験して正直な感想を聞かせてください」とだけ案内し、試食会をスタートしました。
私も一緒に試食しましたが、パッケージに書いてある「水を注いで60分でふんわりご飯」「美味しい防災食」「焼きたての美味しさと風味」のうたい文句通りとてもおいしくて、「正直、味に期待をしていませんでしたがおいしくて驚いた」という感想が多くありました。レトルト食品は口に合わなかった人も数人いたので「これを毎日食べるならこの世の終わりだ」との感想もありましたが、パンやご飯は「おかわりないですか?」と言っている人もいました(笑)。
これだけの内容では、おいしいご飯を食べただけなので防災訓練になっているのかとも思いますが、印象の残る体験を積み重ね、非常時に備えることも大事だと思います。
食事の話の流れでもう一つ。支援センターでは利用される方向けに、低価格でカップラーメンの販売を始めました。これは“もしも”に備えて消費しながら備蓄をする「ローリングストック」という取り組みで、日常使いの物も防災対策になるということを今後の訓練で周知できればと思っています。
「天災は忘れた頃にやって来る」といわれるように、自然災害がいつどこで起こるかは誰にも予測ができません。もし突然、災害に襲われても、慌てず適切な行動ができるように、これからも工夫を凝らして楽しく防災対策をしていきたいと思います。
