県産納豆本気度納得

朝日新聞2010年10月2日掲載

和歌山市岩橋にある知的障害者の共同作業所が、「世界で唯一」という県産大豆100%納豆をつくっている。大豆は、かつらぎ町の農家と共同で栽培した自前のもの。「日本で最も納豆を食べない和歌山」でのユニークな挑戦に県内大手スーパーの担当者も注目し、地産地消のこだわり商品として店頭に並べている。

地産地消 食への挑戦

「はぐるま共同作業所 和の杜」(施設管理者・大中一さん)が生産する「紀州農家のほんき納豆」(45g×1パック、小売価格158円)=写真

少ない消費着目

作業所には知的障害者約20人が通い、納豆やせんべい、ゼリーを生産・販売している。納豆は、かつてスーパーに勤務していた商品開発担当の柏木克之さん(54)が、和歌山での消費の少なさに目を付けた。
総務省の家計調査で、和歌山市民が納豆を買う金額は、全国の都道府県庁所在地と政令指定都市の中で、最少。2007~09年平均で1世帯あたり購入金額は年間1812円。首位の福島市(6742円)の3割弱、全国平均(3693円)の半分以下にとどまる。全国納豆協同組合連合会(東京)は「海産物が豊富な一方で、納豆も大豆も地産から遠かった歴史が、今もなじみの薄い背景ではないか」という。
柏木さんは「消費が少ないからこそ増える余地はある」と考え、03年から作業所で納豆作りに取り組んだ。「地産地消」を重視した商品開発をしており、当初から県産大豆を原料に考えていたが、本格的に大豆を育てている農家が県内にないため、まず九州産大豆で商品化して産直スーパーなどで販売を始めた。

大豆栽培も着々

週600~700パック生産する主力商品に育つと、満を持して「誰にもマネできない」県産大豆の栽培を計画。農産加工品の研修会で知り合ったかつらぎ町の農家、林健一さん(61)の協力を得て、08年から林さんの親類が所有する農作放棄地(約670平方メートル)で栽培を始めた。作業所を利用している障害者たちも種まきや草取りに通い、秋に約160キロを収穫できた。
この大豆で作った納豆を県産品の商談会に持ち込んだところ、「ほかにない商品で、消費者の関心が高い地元産をアピールできる」とスーパーのオークワ(和歌山市)の仕入れ担当者に評価され、納入が決まった。現在は週3日計72パックを和歌山、岩出両市の3店で限定販売している。
柏木さんは「並大抵のことではないが、一般の市場で勝負していきたい」と話す。栽培した大豆は農薬をほとんど使わないため虫食いが多いが、不ぞろいな粒をすべて手作業で選別。井戸水を使い、家庭用の圧力釜で火を通し過ぎないようにして風味を残している。「人手をかけて一つ一つ手作りできることが作業所の強み」という。
利用者の男性(26)は「自分で種まきした大豆で納豆を作るはワクワクする。豆が大きくてふっくらしていて一番おいしい」と出来栄えに満足そう。
今年は大豆の栽培面積を約2倍増やし、11月に収穫を予定している。