悪質運転厳罰法が成立

朝日新聞 夕刊2013年11月20日掲載

飲酒・病気・薬物 最高懲役15年

病気の影響や無免許運転などによる死傷事故の厳罰化を図る「自動車運転死傷行為処罰法案」が20日、参院本会議で可決・成立した。法務省は病気の対象に、発作を伴うてんかん▽統合失調症▽重度の眠気を催す睡眠障害―などを想定。今後、政令で定める。▼10面=恐れる患者ら
法案は、栃木県鹿沼市で2011年4月、クレーン車運転手がてんかんの薬を飲まずに発作を起こし、児童6人をはねて死亡させた事故などを機に作られた。
遺族らは検察側に、量刑の上限が懲役20年の危険運転致死罪を求めたが、同罪は「アルコールまたは薬物の影響により、正常な運転が困難な状態で」と規定されているため断念。上限が懲役7年の自動車運転過失致死罪での起訴にとどまり、厳罰化を求める声が高まっていた。
これを受けて今回の新法では、飲酒や病気、薬物摂取の影響で「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」で起こした事故にも、最高で懲役15年が科されることになった。
さらに飲酒運転の摘発を逃れようとする行為に上限で懲役12年を科す規定や、無免許運転で死傷事故を起こした場合に刑を重くする規定も盛り込まれた。(西山貴章)

法務省が想定する対象の病名

  • 発作を伴うてんかん
  • 統合失調症
  • 再発性の失神
  • 無自覚性の低血糖症
  • 躁鬱(そううつ)病
  • 重度の眠気を催す睡眠障害

「病名で差別」の不安
悪質運転厳罰法 てんかん患者ら

病気の影響などによる重大事故を厳罰化する「自動車運転死傷行為処罰法案」が20日、可決・成立した。栃木県鹿沼市の事故遺族も国会の傍聴席で見守った。
▼1面参照
遺族らは厳罰化を求めて署名活動などを展開。6月には、てんかんの発作などを隠して運転免許を取得・更新した人に、懲役1年以下か罰金30万円以下の罰則を新設する改正道路交通法が成立した。一方、法務省によると、病名を特定して厳罰化する規定は先進国では例がなく、患者からは不安の声も聞かれる。
てんかんを患う精神保健福祉士、野本千春さん(54)=京都市=は、約16年前に発症し、投薬生活を続けた結果、10年以上発作がない。「厳罰化すれば、てんかんを患う人の運転意欲を萎縮させる。症状や運転能力で判断せず、一律に特定の病気を持つ人を対象にするのは差別だ」と憤る。また、公共交通機関が少ない土地では、「病気を隠して、治療を受けない人が出てくるかもしれない」と懸念する。
公益財団法人・交通事故総合分析センターによると、昨年1年間の全交通事故約66万5千件のうち、病気の発作・急病による事故は279件。
交通事故訴訟に詳しい高山俊吉弁護士は「発作などによる事故はごく一部。だが新法によって、解雇や差別への不安から、患者が病名を正直に言えない社会になるのではないか」と話す。