障害のある人たちが働く

しんぶん赤旗 2014年6月18日(水曜日)掲載

古民家に「図画耕作所」

アートと農 仕事に

「誇りを持って働ける場所に」-。障害のある人たちがアート(芸術)などを通して地域とのつながりをつくることをめざす共同作業所が18日、和歌山県内に新たに開所します。
JR和歌山線粉河駅(紀の川市)そばにたたずむ築年数約100年の古民家「山崎邸」。障害のある人が働く「ポングリ図画耕作所」(社会福祉法人一麦会・麦の郷)が、この一角にオープンします。
「絵を描くことやものづくり、音楽が好きという人や、他の作業所で長続きしなかった人たちが来る予定です。ここで働くことで自信を取り戻せたら」と話すのは、職員の奥野亮平さん(33)。
「アートを中心に活動する予定だけど、気が向けば、敷地内の畑で土と触れ合えるようにしたい」と作業所の名前に込めた思いを語ります。

母屋はカフェ

奥野さんは、今年11月の「赤旗まつり」にも出演するロックバンド、ソウル・フラワー・ユニオンのライブに使う背景画を作製するなどの活動をしています。
山崎邸の敷地面積は約1600平方㍍。近代和風建築の2階建て母屋と手入れの行き届いた庭があります。門をくぐり、すぐ脇にある蔵が「ポングリ図画耕作所」です。母屋は麦の郷が運営するカフェ創(はじめ)。精神障害のある人、ひきこもり経験のある人らが働いています。
「ポングリ図画耕作所」の開所を控え、古くなった鍋のふたや廃材を使ったチンドン太鼓づくりと木製の皿づくりのワークショップ(体験講座)を2回にわたって開きました。

頬っぺたの星

参加した女性は、2日間のワークショップでチンドン太鼓を完成させました。これまでは、美術の授業でも途中でつらくなり作品を完成させたことがなく、女性の母親は驚き、喜んだといいます。引っ込み思案だった女性が、チンドン太鼓の演奏会では仲間の前で歌を披露。奥野さんは「それぞれのペースで無理なく作業をすすめる中で、自信がついたのだと思います」と目を細めます。
一般就労の経験がある男性は就職先でいじめに遭い、引きこもりに。参加当初は、男性の緊張が痛いほど伝わってきたと奥野さんは振り返ります。
耐震工事を済ませたカフェ創の再オープン時、仮装してチンドン太鼓をたたきながら町中を練り歩きました。仮装をためらっていた男性は、頬に星を描きシルクハットをかぶって参加。「懐かしい」という声が上がるなど地域住民の喜びの反応を受け、男性は終始、笑顔を絶やしませんでした。
「頬っぺたの星を消さずに帰宅したんです。彼にとっては、勲章のようなものだったのでしょう」と奥野さん。
麦の郷の野中康寛事務局次長は「障害のある人が地域で働く中で、誇りを回復できることをめざして私たちは活動している」と話します。奥野さんは「障害のある人たちがアートを仕事に、地域にとけ込める作業所をめざしたい」と願っています。(岩井亜紀)