精神障害「不幸じゃない」

毎日新聞 2016年(平成28年)3月10日(木)

岩出の寺脇さん夫妻 12日に体験語る

精神障害者同士として知り合って10年前に結婚し、当事者の立場から精神障害に対する理解を訴える講演を続ける夫婦がいる。岩出市の寺脇弘隆さん(48)と妻直美さん(50)。2人は12日、那智勝浦町で自分たちの経験などを語る。弘隆さんは「精神障害には誰もがなりうる。でも不幸じゃないことを知ってほしい」と訴える。
【道岡美波】

寺脇さん夫妻は診療を受けていた病院のデイケアで出会った。

農家だった弘隆さんは25歳の時、対人関係がうまくいかず、怒りなどの感情を抑えられない情緒不安定性人格障害と診断された。デイケアに通うようになり、「精神障害の仲間が大勢いて、みんな悩みを抱えながら生きていることを知った」。

直美さんは20歳で幻聴や被害妄想に悩むようになった。「周りの人が私を監視して悪口を言ったり、バカにして笑っている」。統合失調症で約20年間入退院を繰り返し、その中で主治医からたまたま同じデイケアを勧められた。勝手が分からない中、いろいろと弘隆さんが手助けをしてくれたことがきっかけとなり、2006年に結婚した。

2人は現在、精神科で診療を受けながら病院のデイケアや麦の郷・紀の川生活支援センター(紀の川市尾崎)に時々通う。精神的負担の大きさから継続的な就業が困難なため、主に障害年金をやり繰りして暮らす。

精神障害を持つ人は夜や休日に不安や寂しさから自殺願望が募ったり、体調を崩したりしやすい。ともに暮らす2人は互いに支え合えるが、県内にはいつでも話を聞いてくれ、何かあればすぐに駆け付けてくれる態勢がほとんど整っていない。

また、社会には「犯罪を起こしやすい」などのイメージも根強い。2人は「100人に1人が統合失調症を発症するとされる。当事者として地域に正しい知識を発信する必要がある」とこれまでに10回以上、実名で講演を重ねた。

2人をよく知る藤本綾子センター長は「どんなことが助けになるのかを支援者に教えてくれる。頼りになる」と話す。2人の講演を聴き、自らも講演活動に取り組む当事者も増えてきたという。

「障害者のことを分かってくれる人が増えて、みんなが暮らしやすい世の中になってほしい」。直美さんは講演の最後に、そう伝えるつもりだ。

講演「だれもが暮らしやすいまちへ‐ふたりで思う病気になった幸せ」は午後1時半~3時、那智勝浦町天満の町体育文化会館である。問い合わせは県東牟婁振興局保健福祉課 (0735・22・8551)。