農福連携 障がい者福祉と農業 協力し合って、地域を豊かに

農民新聞 2016年(平成28年)9月26日(月)

岩出の寺脇さん夫妻 12日に体験語る

地域農業の担い手確保が課題となる中、障がい者のための福祉事業と農業をドッキングさせた農福連携事業が注目されています。

紀ノ川農協と社会福祉法人一麦会 和歌山

和歌山県では社会福祉法人一麦会(いちばくかい)が紀ノ川農協と協力して、農作物の生産、加工の受託や、直売所の「ふうの丘」に併設したカフェ「mulino(ムリーノ)」や屋台スタイルの売店「風車」の運営を行っています。紀ノ川農協理事で「ソーシャルファームもぎたて」代表の中原力哉さんに話をうかがいました。

◆休耕地を活用して

一麦会と紀ノ川農協の協力は1998年にさかのぼります。この年から紀ノ川農協が開催した日曜市に、農作物以外で出店できないか一麦会に相談があり、コロッケ製造を行う事業所があったことから、コロッケの販売を朝市で始めました。

加工所で農産物の加工受託を行ってきましたが、宇田篤弘組合長から「休耕地で加工用トマトを作ってみないか」と提案があり、2012年から農業生産がスタートしました。

現在では露地の畑を1㌶耕作し、玉ねぎ50㌃、大根40㌃、加工用トマト10㌃ほどの生産をしています。「向き不向きは人それぞれだとは思いますが、規定通りの作業が要求される農産物の加工などと比べると、ある程度のファジーさがある農業は障がい者に向いている面もあると思います」と中原さん。

カフェ「mulino」では、地元の朝どれ野菜を使い、世界各国の料理風にアレンジした「野菜で旅するランチプレートが人気を博し、和歌山県原産のかんきつ類「ジャバラ」のピールも人気商品になっています。

「すべての人がこの地域で豊かになってほしい。地域の休耕地を耕作することで雇用ができ、その生産物が社会的評価を得られれば、働く人にも一番得るものがあると思います。『障がい者がやっているから』と同情で買ってもらう形には、したくないです」と話します。今年度中には農業生産法人の設立も目指しています。

収穫の喜び、やりがい実感

坂朋治さん(30)は橋本市から通って農作業に従事しています。「物を作り、自然と触れ合いながらできる仕事をと、今年の2月から働いています。今は大根の収穫に向けた準備や、休耕地の草刈りなどをしています。夏の暑さの中の作業は、『こんなにも大変なのか』と思いましたが、それにもまして収穫のうれしさ、喜びが大きいと実感しています」と語る坂さん。「休耕地の草刈りをすると、見た目もきれいになり、やりがいを感じています。耕作する休耕地をもっと増やしていけたら」と意気込んでいます。

◆対等な立場で助け、支え合う

紀ノ川農協の宇田篤弘組合長は「働いている人たちは、条件の悪い時でも嫌な顔一つせずに作業しています。本当に助かります」と仕事ぶりに感謝しています。

「農協の設立時から、地域の発展がなければ農協の発展もないという考えでやってきました。地域の中には、高齢者もいれば障がいを持つ人もいる。協同組合ですから地域のすべての人たちに貢献する役割があります。高齢化で農業の人手不足があり、障がい者の働き場所が不足しているなか、お互いの問題を解決する手段としていろいろな事業を進めています。対等な立場で支え合い、やっていけているのでは」と話します。

地域の一員として、長年にわたり互いに協力しあった結果が、現在の紀ノ川農協の農福連携事業へとつながり、地域を守る取り組みに発展していました。