働く ひきこもり経験者

朝日新聞 2018年5月18日(金)掲載

紀の川市の古民家に、木、金、土曜の週3回だけ開かれるカフェがある。カレーや自家焙煎のコーヒーなどが味わえる「創—HAJIME—cafe」だ。そこで働いているのは——。

週3日開く古民家カフェ

紀の川市粉河にある「山崎邸」。綿織物の生産業で財産を築いた山崎家の邸宅だ。住宅の門をくぐって左手にある勝手口に入り、細長い廊下を進むとカフェが見えてきた。店内はカウンターとテーブル、ソファ席がある。奥には座敷席もあり、ちゃぶ台と座布団が並んでいる。かつての土間と和室2間を改装した。

2013年にオープンした。社会福祉法人「一麦会」のひきこもり者社会参加支援センター「ハートフルハウス 創—HAJIME—」の活動の一環。カフェで働くのは、このセンターの利用者たちで、ひきこもり経験者の就労の場となっている。

センター長の森橋美穂さん(41)は「社会の中で居場所をなくした人たちがいる。福祉制度を利用することもできないし、一般的な社会で働くことも難しい。そういうはざまの人たちが働くイメージをつかめるような中間的就労の場としてカフェを作りました」。

現在は10人ほどの利用者がカフェで働いている。シフトは自由で、体調や気分に応じて出勤できるという。皿洗いや盛り付け、配膳、接客など自分にできることをそれぞれ担当する。

「ここで働いて他の飲食店で働き出した利用者もいるんです。社会につながったんですよね」と森橋さん。利用者はカフェで働くことで社会の中での所属感を持ち、達成感も得られるという。利用者からは「人ってこわいなと思っていたけど、そんなに悪いもんじゃないって肌で感じられた」という声もあった。

カフェを訪れる人たちには成り立ちを知っている人もいれば、知らない人もいるが、「ゆっくりできる」「過ごしやすい」と評判だ。利用者が丁寧に手作業で入れたコーヒーはおいしくて、ファンもいるほどだという。

森橋さんは、「普通とか当たり前にはまらなくていい。自分らしい生き方を見つけられる場所になったらいいなと思います。ここが人の行き交う拠点になって、誰もが助け合える地域になるのが理想です」と語る。

カフェは、木、土曜の午前11時〜午後3時。金曜のみ午前9時半から。問い合わせは同店(0736・60・8233)(本間ほのみ)